Stained Glass Works Story
稀代の工芸職人たちが起こした奇跡。
それは唯一無二の挑戦が生んだ、技と巧と美の極み。
独特の世界観で、人々を魅了するステンドグラス。技と巧を極めなければ成し遂げられない作品づくりに果敢に挑み、新たな解釈で数々の傑作を現代に蘇らせた稀代の工芸職人たちがいる。彼らはマルヨシのステンドグラス工房に集い、日々自らの創作スキルの極限に挑み続けた。そのプロセスはやがて熟練の域に到達し、さらには唯一無二の価値創造の領域へと進化。そして光と色彩が織りなす、美の極みとなる「奇跡の作品群」へと昇華する。
ステンドグラス作品づくり。その源流は、節句人形づくり。
マルヨシの創業は江戸時代に遡る。製陶業を皮切りに、その後ペーパーマシアによる人形づくりを経て、昭和期において節句人形(雛人形・五月人形)の製作に着手する。人形づくりおよび飾りの道具づくりは、精緻な手技で美しさを極める、まさに伝統工芸の職人技が求められる世界。量産化が難しい制作工程に、マルヨシは変革を起こす。それは、最高級の品質を維持したまま、コストパフォーマンスの最大化も図る製造ラインの確立。フィリピン・セブ島に工場を建設し、同国で工芸職人を育て上げ、節句人形の画期的な量産化を実現する。
その結果、全国各地の人形メーカーへの多種多様な商品提供を一手に担うという立場へ。マルヨシは、節句人形市場活性化の立役者になり、以来、長年に渡り全国の子どもたちの健やかな成長を願う「日本の伝統行事」を支える、不可欠の存在となる。しかしながら、節句人形市場は、他の伝統行事関連市場と同じく、時代の流れともに縮小の一途へ。そんな折にスタートしたのが、ステンドグラス作品づくりへの挑戦だった。
選び抜かれた工芸職人たちによるステンドグラス工房が始動。
ステンドグラス独特の魅惑的な世界観を、今まで積み上げてきたスキルと独自の解釈で表現してみたい!という強い動機が、新たな挑戦への第一歩を後押しした。まず着手したのが、ステンドグラス製作の第一人者からの手解き。そして同時に工芸スキルと創作センスに優れたフィリピンの現地スタッフをオーディションによって選抜。工芸職人チームを立ち上げた。同国には独自の伝統工芸文化があり、そのレベルも日本に引けを取らない。極めて優秀な才能が集まり、マルヨシのステンドグラス工房は、始動する。また、アンティークガラスへの絵付けや繊細なグラデーション表現を可能にする「フッ化水素」を扱う特殊な設備をはじめ、オリジナルの創作デスク、焼成窯、デザインツールなどへの資本投下も行い、最高のクラフト環境を整える。こうしてマルヨシの唯一無二の価値創造への挑戦が、いよいよ本格化する。
色鮮やかに浮かび上がる美しさへの感動、その極致を目指して。
H形の断面を持つ鉛のリムを用いて着色ガラスの小片を結合し、絵や模様を表現する・・・一般的なステンドグラスと違いマルヨシが挑んだのは、絵付けステンドグラスと呼ばれるもの。これをつくれるのは、ステンドグラス製作人口のうち、わずかしかいない。なぜなら技術的に難しく、気の遠くなるような手間ひまがかかるから。絵付けには「グリザイユ」「エマイユ」「シルバーステイン」など、焼成温度が違う様々な顔料を使い、作品のほとんどは、その性質上、10数回に分けて、「描いては焼き、描いては焼き・・・」というプロセスを辿り、一つの作品の完成までに1カ月以上の日数を要する。
当初の作品テーマは生き物や風景が中心だった。これらの習作を繰り返す中で、絵付けの「技」、焼成の「巧」、そして光を透過したときに色鮮やかに浮かび上がる「美しさ」への感動・・・その極致をただひたすらに目指し続けた。やがてマルヨシオリジナルの絵付けステンドグラスは、本場フランスでも高く評価されるようになる。
多彩なシーンを光と色彩のアートへと昇華する。
「実に繊細で素晴らしい。こんな美しいステンドグラスは初めて見ました」(パリ国立エコール・デ・ボザール大学のステンドグラス学科教授)。「光と色彩の調和が見事。唯一無二の作品世界と言える」( フランス最大のステンドグラスメーカー)など、数々の賞賛を得る。空や山河の絶妙なグラデーション、生き物の表情や木の枝一本一本の繊細な描写、四季折々の風情や郷愁を誘う日本の原風景の表現、そしてファンタジー世界の表現など、多彩なシーンを「光と色彩のアート」へと昇華させ、国内外の各方面から注目される。
技と巧と美の極みを創りだせるようになったマルヨシは、自らの作品世界の可能性を広げ、高め、深めるために、さらに難易度の高い作品テーマへの挑戦を決め、動き出す。それは誰もが知る「名作」の数々へのオマージュとしての完全模写で、ここでも唯一無二の価値創造を、血の滲むような日々を重ねて実現する。
独特の美しさで現代に蘇る、名作へのオマージュの数々。
歌川広重「東海道五十三次」「名所江戸百景」、葛飾北斎「富嶽三十六景」などの浮世絵、上村松園、渓斎英泉などの美人画、錦絵、尾形光琳「風神雷神図」など国指定重要文化財の襖絵や屏風絵、そしてアールヌーボーを代表する画家アルフォンス・ミュシャなどの絵の「完全模写」を、誰にも真似のできないレベルで、次々と創作。どれもがまさに奇跡と呼ぶに相応しい完成度に達している。光の透過によって色鮮やかに浮かび上がる様は、ある意味、原作にはない独特な美しさが映える。紙の上に描かれた「質感」とは違う、アンティークガラス上に表現された「上質な透明感」が、みずみずしい美しさを浮き彫りにする。通常の模写作品とは一線を画する、この「上質な美しさ」こそが、マルヨシの名作オマージュの価値と言える。
もう2度とつくれない、奇跡の作品群。
工房は、数々の名作を次々と生みだした後、ひと区切りをつけ、無期限休業へ。工芸職人チームも解散した。つまり、もう2度とつくれないものであり、この希少性も相まって作品群の価値を高めている。名作オマージュにしても、マルヨシオリジナルにしても、どの作品にも等しく存在するもの。それは見るものの心にすっと届く「癒し」「和み」「優しさ」「温かさ」のメッセージ。そしてすべての作品に工芸職人たちが込めた情熱と誇りが息づいている。
最後に。ぜひ実物の魅力を感じてほしい。
この作品集では、作品テーマごとに「絵付けステンドグラスの世界観」に触れられる構成になっています。ただ、WEB上では「本来の魅力」を伝えきれないのが正直なところです。唯一無二の実物の絵付けステンドグラスを前に。それぞれの作品が光を帯びて、その美しさが際立つ瞬間、迫りくる「感銘」をぜひ味わってほしいと思います。
マルヨシのステンドグラスとは?
ステンドグラスには大きく分けて2種類ある。一つは一般的に知られているように、色ガラス(または模様付きガラス)を切って鉛桟で組んだもの。もう一つは、絵付けステンドグラス。これは何百年も前からヨーロッパ各国で、主にキリスト教の寺院の天井、窓用に製作されたもので、絵物語にして宗教理解を深めるために用いられた。マルヨシのステンドグラスは、後者の「絵付けステンドグラス」で、前者に比べて、その製作の難易度は極めて高く、現代では、その製作者はわずかしかいない。「アンティーク」と呼ばれる主にフランス製の「サンゴバン」という希少価値の高い手作りガラスに、「顔料」で描いては焼き、描いては焼き・・・というプロセスを繰り返し、最後に鉛桟で組み立てをして完成する。繊細な工程の連続で、一つの作品を仕上げるには、1ヶ月以上の日数がかかる。その工程の詳細は以下の通り。デザイン起こし、デッサン、製図、トレース、型紙作成、ガラス選び、ガラスカットなどの下準備を経て、グリザイユ(※1)で線描きをして焼成。その後調子付けと言われる「陰影をつけて、焼成」という工程を2~3回繰り返す。続いて一色ごとに色グリザイユやシルバーステインで色を施し焼成、色ごとに焼成、そしてガラスの裏側から色ごとにエマイユ(※2)を施し焼成。さらに反射板を通して全体の色の状態を見て、修正を繰り返して完成度を高める。その上で鉛桟による組み立て、ジョイント部分の半田づけ、パテ詰め、おが屑によるパテの掃除、磨き。全工程が繊細にして難易度が高く、すべてを完璧に遂行しないと作品として完成しない。まさに工芸の極致とも言えるもの・・・それがマルヨシが挑んだ絵付けステンドグラスづくり。
※1 グリザイユ 金属の酸化物と粉末ガラスが主成分で線描きと光の調整に使用。600度で焼成。「酢溶き」は線描きに使用(3種類の顔料をワインビネガーで1時間以上練って作る)。「水溶き」は、調子付け用で光の調整役(3種類の顔料を水で30分練って作る)。
※2 エマイユ ガラスの裏側からグリザイユで表現できなかった色の調整を行う。色により焼成温度が違って540度~560度。注意点として温度が高いものから焼成する。
※留意事項 ステンドグラス作品は、1点1点が手作りのため、また、外枠の素材である鉛の性質上、
多少の変形の可能性もあり、それぞれの作品のサイズ表記については、おおよそのサイズとなります。